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夜が暑くなくなってきて、お酒を飲んだ後ふらふらするのが楽しくなってきた。ものすごく久しぶりに靴を買った。スリッポンという間抜けな名前がついていて、その靴を買った帰り道、歩きながら「スリッポン、スリッポンポン、スリッポン」と口ずさんだ。スリッポンは履きやすいし歩きやすいすぐれものだった。スリッポンを脱ぐとき、もしかしてポンッと音がするからスリッポンなのではないかと恐る恐る脱いだがポンッとは言わなかった。スリッと音がした。そっちかよと思った。

 

 

スリッポンを履いて敵国降伏という強烈な四文字の書かれた由緒ある神社を酔っぱらって歩いた。本殿に続く参道は海からまっすぐのびている。広い参道だが、夜は誰もいなかった。参道の真ん中に立つとポツンという音が聞こえた。私が立ち止まった音だった。耳を澄ますとどんどん身体が小さくなっていった。どこまで小さくなるのかいつも試すのだが、はじかれるような衝撃が内臓からきて耳を澄ますのを止めてしまう。小さいころ、熱にうなされた時は必ず身体が小さくなっていった。真ん中に黒い点があって、その点がどんどん大きくなって世界が斜めになった。小さくなりながら、黒い点が人の形をしてゆっくり伸び縮みするのを見ていた。その時も、ある瞬間にはじかれるように布団から飛びだした。そして泣き喚いた。