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酷い頭痛。今日は雨が降ったから黄砂が流れたし風が気持ちいい。

 

村田沙耶香の「コンビニ人間」を読んだ。主人公の古倉恵子は18年間同じコンビニバイトを続けている。趣味はなく自己と他者への関心や共感が薄く、感情自体がうまく理解できない彼女にとってコンビニのシステマティックに稼働する世界が唯一の安息の場所と感じている。コンビニバイトである理由をいかに当たり障りのないもっともな理由を妹に考えてもらうのだけど、同級生とバーベキューをしている時にぽろりと出た本音とまわりの反応が、身に覚えがあって苦しくなった。

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(結婚について)

 「いや、早いほうがいいでしょ。このままじゃ駄目だろうし、焦ってるでしょ、正直?あんまり年齢いっちゃうとねえ、ほら、手遅れになるしさ」

「このままじゃ……あの、今のままじゃだめってことですか?それって、何でですか?」

 純粋に聞いているだけなのに、ミホの旦那さんが小さな声で、「やべぇ」と呟くのが聞こえた。

 

コンビニ人間 p76より

 

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主人公はこういったやり取りに対して「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。」と理解している。主人公にとって社会というシステムそしてコンビニというシステムの部品になることが重要であり、システム上問題のあれば削除され、何事もなかったかのように修復されるので、そうならないために正常なように繕うようにしてる。

 

物語の重要人物として「白羽」という男がコンビニに現れる。白羽は自意識が強く自分が社会から認められないことに強く不満をもっており、働く人間を「底辺」と罵る。主人公とは似て異なる存在で、主人公は恋人がいままでいなかったことや正社員でないことをコンプレックスとはとらえておらず、「何故そうなのか」と聞かれたときにうまく答えられないと正常ではないと判断され削除されてしまう可能性があるから、それらの質問が煩わしいと感じている。しかし彼は、30代半ばでバイトであることや恋愛したことがないこと、童貞であることをコンプレックスに感じており苦しんでいた。彼はそれらの苦しみをもたらす人達を見返す為に結婚したいと考えていて、主人公を「処女でも中古で薄汚い女」と罵る。肥大した自意識故に主張の矛盾に気がつかない。そこからすったもんだがあるのけれど、気になる人は買って読んでね。

 

 

私はどうしても、何の作品でも自分と登場人物を重ねてしまう。共感できる登場人物はなりたい自分で、嫌だなと思う人物は今の自分に近い存在だ。主人公の古倉恵子の考え方は自意識に苦しむ自分にとってとても羨ましいと思ってしまった。主人公は明らかに欠如しているものがあるがそれ故に純粋に生きることができて、まるでガラスで仕切られた清潔な空間に住み続けるような印象があった。純粋であることは異常だ。極端な例だが、特攻隊は純粋に勝つという目的を達成するためには非常に合理的な戦術で、物資が劣る中でかなりの損害と恐怖を相手に出すことが出来た。主人公も純粋に合理的に物事を行おうとすると高い確率で異常な行動をとっている。エピソードとして、小学生の頃に喧嘩をしている同級生を止めろと言われ、確実に止めれるという理由でスコップで同級生を殴ることで動きを止めさせている。異常ではあるが「止める」ことを確実に実行するには非常に合理的だ。

 

白羽は社会システムが機能していないために自らは不当な扱いを受けていると主張している。彼はビジネスのビジョンがあり、起業すればすぐに女が寄ってくると力説するがそのために資金を主人公に出させようとする。恐らくビジョンは無く、仕事をしないのも肥大した自意識のために傷つくことを病的に恐れているからだ。現状が自分のせいであることが分かっているのにそれを認めることに耐えられなくて、社会のせいにし、人を見下す。苦しむことに耐えられなくなり存在を社会から隠してほしいというが自殺はしない。

白羽の気持ちは私も身に覚えがある。嫌々ながら将来的には同じ様になる可能性があるなと思い同情さえもしてしまった。恐らく彼に愛する人が一人でもいたら、思想も行動も大きく変わると思うのだが、残念ながら彼は自分にとっても世間体的にも都合の良い女しか得ようとせず、感受性が豊かなのに情緒が一切ない。

 

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「外に出たら、僕の人生はまた強姦される。男なら働け、結婚しろ、結婚したならもっと稼げ、子供を作れ。ムラの奴隷だ。一生働くように世界から命令されている。僕の精巣すら、ムラのものなんだ。セックスの経験がないだけで、精子の無駄遣いをしているように扱われる」

「それは、苦しいですね」

「あんたの子宮だってね、ムラのものなんですよ。使い物にならないから見向きもされないだけだ。ぼくは一生何もしたくない。一生、死ぬまで、誰にも干渉されずにただ息をしていたい。それだけを望んでいるんだ」

 

コンビニ人間 p100~p101

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疲れると誰しも一度は「息だけをしていたい」と思った経験があるのではないだろうか。これを実現するために彼は主人公を利用し生き生きとし出すのだが、ある意味純粋なのかもしれない。

 

身に覚えがある会話や違和感を綺麗に文章で表現されていたのでうわーこれは辛いなぁとかわかるわかるとか独り言を言いながら読んだ。帯に50万部突破と書いてあるのだが主人公や白羽に共感する人(白羽は共感はせずとも心情は分かるかもしれない)はどれほどいるのだろうか。印象に残る作品だった。